鋼材とは?鋼と鉄の違い・種類・加工方法・用途など徹底解説

鋼材とは

鋼材とは様々な用途に合わせて、鋼板を加工した素材を指します。私たちが普段目にする自動車や家電製品などの日用品の材料として、またビルや橋などの骨組みとして、形や特性を変えて、鋼材は広く使われています。

鋼材は、含まれる元素によって「炭素鋼」と「合金鋼」の二種に大別され、含有する元素の配合によりさらに細かく分類されています。

鋼と鉄の違い

鋼と鉄の違いについて、それぞれの成分や性質を説明します。

鋼とは

鋼とは鉄に炭素を0.02〜2.14%未満混ぜた合金で、鉄単体では扱いにくい素材を人工的に加工しやすくしたものです。炭素のほかにも、様々な元素を含有することにより、物理的特性を付加したものがあります。

原則として、含有する炭素の量が多いほど鋼は固くなりますが、固くなるほど靭性(折れにくさ)は低下するため、脆くなってしまいます。そのため鋼材メーカーでは、高い硬度と靭性をバランスよく両立させるため、含有させる元素や熱処理方法などを工夫し、目的に合った性能の鋼材の開発を日々行っています。

鉄とは

鉄は炭素をほとんど含みません(0.02%未満)が、純度100%の鉄は用途も限定されるため、私たちが目にすることはほとんどありません。高純度の鉄は酸化しやすい・脆い・軟らかいなどの特性をもつため、加工には不向きな素材です。反面、鉄は少しでも不純物を含むと、強度や靭性が増し容易に加工できるようになります。

鋼と鉄の違い

鋼も鉄も鉄鉱石を原料として作られ、主成分はどちらも鉄(Fe)なのですが、含まれる炭素(C)の量によって分類が変わります。鉄は金属としては柔らかく、耐腐食性もほとんどありません。対して鋼は非常に硬く、耐食性もある程度持たせた物質になります。

項目
分類 元素(純粋な金属) 鉄と炭素などの合金
炭素含有量 ほぼなし(0.02%未満) 0.02%〜2.14%程度
硬さ・強度 柔らかく、強度が低い 強度・硬度が高い
加工 加工しやすいが脆い 強度と加工性のバランスが良い
耐食性 錆びやすい 錆びにくい種類もある

鋼の種類と特徴

続いては鋼の種類と特徴について解説します。鋼は成分や加工法によって名称が変わるため、ここでは成分で分類したときの鋼の種類と、加工法で分類したときの鋼の種類をそれぞれ紹介します。またそれぞれの用途についても併せて記載していきます。

成分による鋼の分類(炭素鋼・合金鋼)

広い意味では炭素鋼も合金の1種ですが、鉄(Fe)・炭素(C)以外の不純物の割合が少ないものを炭素鋼、それ以外の元素を多く含む特殊鋼を合金として、解説していきます。

炭素鋼

炭素鋼は含有する炭素量により、炭素含有量が0.25%以下は低炭素鋼、0.25~0.6%は中炭素鋼、0.6~2.14%は高炭素鋼に分類されます。一般的に炭素を多く含むと硬度は上がり靭性は下がるため、低炭素鋼は構造材として多く使われ、高炭素鋼は工具などに使用されます。

SS材

SS材とはSteel Structureの略で、一般構造用圧延鋼材を意味します。炭素の含有量は0.1~0.3%のため、低炭素鋼から中炭素鋼に分類されます、代表的な鋼材にはSS400などが挙げられ、数字は引っ張り強さの最小保証値(MPa)を表しています。加工機の架台や支柱などに使われています。

SK材

SK材とはS(Steel)とK(Kougu)の略で、炭素工具鋼鋼材を意味します。0.6〜1.5%の炭素を含有しており高炭素鋼に分類され、鋼の中で炭素量が最も多い素材になります。SKと2~3桁の数字で表され、数字は炭素の含有率を表します。SK85は0.85%の炭素を含有するという意味になります。家庭用の刃物や、工場で使用する工具など幅広い分野で使用されています。

S-C材

S-C材とはS(Steel)とC(Carbon)の略で、機械構造用炭素鋼鋼材を意味します。SS材と比較して、熱処理が施せるなど、機械的性質に優れており硬度が必要な部品や精密機器に使用されています。S○○Cで表示され、○○は炭素の含有率を表しています。S50Cであれば炭素の含有量は0.50%です。

SPC材

SPC材とはSteel Plate Coldの略で、冷間圧延鋼板を意味します。炭素含有率は0.1%未満と少なく、低炭素鋼に分類されます。SPC材は柔らかいので、プレス加工による穴あけや曲げ加工に適しており、自動車のボディや家電製品の筐体など外装用の材料として、広く使われています。

合金鋼

合金鋼とは鉄と炭素以外の元素を一定量添加した鋼のことです。鋼にクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、コバルト(Co)などを添加し、耐食性や耐摩耗性能を向上させるなど、添加する元素により様々な特性を持たせた鋼になります。

ステンレス鋼(SUS材)

SUSはSteel Use Stainlessの略です。ステンレス鋼(SUS材)は、ニッケル(Ni)とクロム(Cr)を添加した合金です。

ステンレス鋼はその名の通り錆(Stain)ない(Less)材質として知られていますが、厳密には決して錆びないわけではなく、長期間錆びにくい合金になります。磁性を持たない金属というのも特性として挙げられますが、こちらも切削加工などにより材料にストレスを与えると、磁性を持つように変化してしまいます。錆びにくく汚れにくい材質であるため、厨房機器や海水にさらされる船舶の材料として、使われています。樹脂成形では、成形時に腐食性のガスが発生する材料の対策としても用いられています。

ハイテン鋼

ハイテン鋼(High Tensile Strength Steel)とは、引張力・抗張力が非常に高い合金鋼です。

類似用途のSPC材やSS材と比べて倍以上の引張強度をもつ材料です。0.2%以下の低炭素鋼にシリコン(Si)やマンガン(Mn)、チタン(Ti)などを添加して強度を上げています。強度を保ちながら従来よりも薄い材料に代替できるため、自動車のボディの材料として使われ車体の軽量化に貢献しています。

合金工具鋼
SKS材(ハイス鋼)
SKS材(ハイス鋼)とはSteel Kogu Specialの略で、高速度工具鋼鋼材を意味します。SK材にCr(クロム)やW(タングステン)、V(バナジウム)を添加し、耐摩耗性や耐衝撃性を向上させた鋼になります。その特性からドリルやエンドミルなどの切削工具や、冷間加工(プレス加工)金型などの用途で広く使われています。
SKD材(ダイス鋼)
SKD材(ダイス鋼)とはSteel Kogu Diceの略です。SK材にCr(クロム)やMo(モリブデン)、V(バナジウム)が添加された鋼です。
成形・プレス加工問わず金型の材料としてもっとも使用されている材料になります。私たち金型業界ではなじみの深い材料です。
機械構造用合金鋼

中炭素鋼(C含有率0.12~0.5%)に、ニッケル(Ni)やクロム(Cr)、モリブデン(Mo)などを添加し、焼入れ処理に適した合金です。

熱処理に対する特性がよく、焼入れ焼き戻し処理をすることにより、高い靭性と硬度を出すことができる材料です。硬度と靭性を高レベルで必要とする歯車やネジ、自転車のフレームなど、身近なものにもよく使われています。

超硬合金鋼

超硬合金はダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ、非常に硬い合金です。クロム(Cr)やタングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)といった素材に、鉄(Fe)やコバルト(Co)、ニッケル(Ni)で結合した粉末状の金属炭化物を型に入れて焼く、焼結という方法で作られます。

硬度が高いため切削工具などの材料として用いられますが、床に落としただけで折れてしまうなど、非常に脆い性質も持っています。プレス型に使用する場合はクリアランスや加工条件に注意が必要です。

熱処理による鋼の分類

焼入れ・焼き戻し鋼

熱処理により強度を変更できる鋼材を焼入れ・焼き戻し鋼と呼びます。鋼材を800度以上の高温に加熱し急冷することにより、マルテンサイトという非常に硬い組織構造に変質させることを焼入れと言います。焼入れのままでは非常に硬く脆いため、鋼種ごとの適正な温度で一定時間保持することにより、目的に合った硬度と靭性のバランスに調整することを焼き戻しと言います。焼入れ・焼き戻しによる硬度はHRC40~60以上まで、鋼材により調整することができます。

プリハードン鋼

プリハードン(PreHarden)鋼は、既に熱処理が施された状態の鋼材のことです。焼入れ鋼に比べて硬度は低く調整されているため、加工してそのまま金型に使用することができます。あまり耐久性を必要としない樹脂成形や、試作金型などに使用されます。

用途による鋼の分類

鋼はその用途に応じてさまざまな種類に分類されます。用途別の代表例を以下で説明していきます。

構造用鋼(建築・橋梁・機械部品など)

建築物の骨組みや橋梁、鉄塔などの構造物に広く使用されます。対疲労性が高く溶接性の良さなどが特長です。

工具鋼(刃物・金型など)

工具鋼は切削工具や金型の材料として使用されています。耐摩耗・耐熱性などが必要とされる材料です。

ばね鋼(弾性が求められる用途)

コイルスプリングや板ばねとなる材料です。非常に高い引張強度を持ち、弾性限度も高いため繰り返し荷重にも耐性があります。

特殊用途鋼(耐摩耗鋼・耐熱鋼など)

過酷な条件下で求められる性能に特化した材料です。発電所のガスタービンでは耐熱性能に優れた材料が使われ、船舶などでは耐食性の高い材料が使われます。

成形加工

成形加工とは材料に熱や圧力などをかけ、変形・成形することにより製品の形を作る加工です。プレスやダイカストが代表的な加工例となり、繰り返し精度の高さから量産部品に使われています。

除去加工

除去加工とは材料から不要な部分を切削などで取り除いていく加工です。切削・研磨・放電などの除去方法があり、成形加工より高精度の製品の製造に使われています。

付加加工

付加加工は、材料に別の材料(材質)を付加する加工です。3Dプリンタなどによる積層造形やメッキも付加加工に含まれます。弊社で取り扱っている金属一体化の技術「P-Bas」も接合加工という付加加工の一種になり、従来の工法では製造が不可能であった形状が作れるという利点があります。

鋼材の形状の種類

鋼材にはさまざまな形状があり、用途に応じた形状から最適な素材として選択することで工数を削減することが可能です。

鋼板

板状に加工された鋼材を鋼板といいます。板金加工などで広く使われ、自動車のボディや家電製品の筐体に使われています。

鋼管

鋼板をパイプ形状に丸めたものを鋼管といいます。建設現場の足場に使われている継ぎ目がわかるものを溶接鋼管(電縫管)、継ぎ目が見えないものを継目無鋼管(シームレスパイプ)の2種類あります。

形鋼

断面がいろいろな形になっているものを形鋼と言います。ビルの骨組みやテーブルのフレームなどに使われ断面の形状によりH形鋼、C形鋼などがあります。

棒鋼

棒鋼は棒状に成形された鋼材です。丸だけでなく四角や六角の規格形状もあり、六角ボルトの材料や金型のピンの材料として多く使われています。

鋼材に関するよくある質問

Q. プラスチック金型とプレス金型で使う鋼材の違いは?

A. 一口に金型と言っても、樹脂成形とプレス加工では選定する鋼材が異なります。
樹脂成形やダイカスト用の金型では、長時間高温にさらされるため高温時の強度が求められ、対してプレス金型では高圧縮に強く衝撃荷重にも強いという性能が求められます。
それぞれの用途に合わせた鋼材選びが重要です。

Q. 金型寿命を延ばすにはどんな鋼材を選ぶべき?

A. 前述したように、用途に合わせた鋼材選びが重要になりますが、寿命を延ばすには設計段階での検討が重要になってきます。いわゆる上位鋼と言われる材料を使えば型寿命は大概延びるのですが、当然コストも上がってしまいます。金型にどういう負荷がかかって、どのような不具合につながるのかを検討しておけば、鋼材に求める性能も絞られてきます。プレスのパンチであれば、圧縮・引張荷重に強いほど寿命は延び、プラスチック成形で型のクラックが問題であれば、ヒートチェック耐性の高い材料を選定しておけば、寿命を延ばすことができます。また表面処理も日々進歩しているので、鋼材の性能を補うコーティングを併用するのも、型寿命を延ばすには有効な手段です。