SKD11とは?用途・特徴や加工法、SKD61との比較

「SKD11」は、冷間加工を中心とする用途において、高精度な寸法維持と長寿命化を実現できるため、製造現場での信頼性が非常に高い材料です。

本記事では、SKD11の基本特性・用途・成分構成・加工フローなどを解説し、SKD61との違いも比較・整理しています。これから金型材料を選定する場合や、冷間金型設計などにぜひお役立てください。

SKD11の基礎情報

SKD11は、冷間金型材料として、プレス加工やせん断加工など、高い精度と耐久性が求められる現場で幅広く用いられます。まずはSKD11について、基礎情報を見てみましょう。

SKD11とは

SKD11とは、耐摩耗性・高硬度・耐圧縮性に優れた冷間ダイス鋼(冷間工具鋼)です。主にプレス金型や、せん断金型、冷間成形用のパンチ・ダイなどに幅広く使用されている代表的な材料です。
なお、SKD11は、JIS規格( G 4404:合金工具鋼鋼材)に規定されている材料です。「SKD」は、S:Steel(鋼)、K:Kougu(工具)、D:Dies(金型)を示し、11は分類記号です。

冷間加工とは

金属を常温または比較的低温の状態で塑性変形(そせいへんけい)させる加工方法を「冷間加工」と呼びます。この加工方法では、高温に加熱しないため寸法精度が高く、表面品質に優れる一方、材料にかかる負荷は大きくなります。そのため、冷間加工で使用される金型には以下の性能が求められますが、SKD11はこれらの要求を満たすため、冷間金型材料として最適な選択肢とされています。

冷間加工の金型に求められる性能
優れた耐摩耗性(摩耗による寸法ズレ防止)
高硬度(押圧・せん断に耐える)
高靭性(チッピング・割れ防止)

SKD11の主な用途

SKD11は、その高い耐摩耗性と圧縮強度により、冷間加工を中心とする様々な分野で活用されています。特にプレス金型・せん断型・冷間鍛造用部品など、繰り返し荷重がかかる工程や精密な形状維持が求められる用途に適しています。

SKD11の用途例

一例としては、以下の分野で幅広く活用されています。

分野 主な用途例 要求特性
プレス金型製造 打ち抜き金型、曲げ型、絞り型 耐摩耗性、寸法安定性、長寿命
せん断工具 パンチ、ダイ、せん断刃 高硬度、耐摩耗性、チッピング防止
精密プレス部品 コネクタ金型、端子金型、電子部品金型 微細形状対応、高精度加工適応
冷間鍛造部品 コイン型、圧延ロール、コールドフォージング金型 圧縮耐性、耐摩耗性、寸法維持性
一般機械部品 ガイドピン、スリーブ、耐摩耗スライド部品 表面硬度、耐摩耗・耐衝撃性

SKD11の主な用途

以下はSKD11の主な用途ごとのポイントとなります。

プレス金型向け

SKD11は、打ち抜き・曲げ・絞りといった加工で利用されるパンチ・ダイ部品の長寿命化に貢献します。

冷間せん断工具向け

せん断時の刃先摩耗やチッピングを防ぎ、寸法精度の維持と工具寿命向上を実現します。

精密部品向け

細かな形状を持つ精密端子・コネクタ金型において、微細加工の安定性・耐久性をサポートします。

SKD11の成分

SKD11の標準成分組成をJIS規格に基づき整理します。

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SKD11の標準成分

成分(元素) 記号 含有量(質量%) 主な役割
炭素 C 1.40〜1.60 硬さ向上、耐摩耗性向上
ケイ素 Si 0.40以下 焼き付き防止、靭性向上
マンガン Mn 0.60以下 脱酸作用、靭性補強
リン P 0.030以下 (できるだけ低減、脆性防止)
硫黄 S
クロム Cr 11.00〜13.00 耐摩耗性・耐食性向上
モリブデン Mo 0.70〜1.20 耐摩耗性向上、二次硬化促進
バナジウム V 微細組織形成、耐摩耗性向上

出典:JISC(日本産業標準調査会)

SKD11の成分におけるポイント

  • 高炭素、高クロム設計により、冷間加工での耐摩耗性と寸法安定性を最大化
  • モリブデン、バナジウム添加により、焼戻し耐性向上と高硬度維持
  • 不純物(P、S)の管理により、割れ・欠損リスクを最小限に抑制

SKD11加工の流れ

SKD11は高い硬度・耐摩耗性を持つため、最適な加工フローを設定することが品質と耐久性を左右します。適切な切削加工、熱処理、研削・放電加工、そして場合によっては表面処理を組み合わせることで、SKD11本来の性能を最大限に引き出すことができます。

SKD11加工の標準フロー

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工程 内容 ポイント
切削加工 熱処理前の焼なまし材を切削 荒加工時に十分な余肉を残す
熱処理 焼入れ・焼戻しにより高硬度・高靭性を付与 寸法変化を考慮した設計が重要
研削加工 熱処理後、寸法精度・表面粗さを仕上げる 微細研削で仕上げ寸法に追い込む
放電加工 深溝や微細部、鋭角部など、切削困難箇所を仕上げ加工 微細放電で熱影響層を最小限に抑制
表面処理(必要時) 窒化処理やPVDコーティングによる耐摩耗性強化 高荷重・高サイクル用途で効果大

各工程のポイント

SKD11は高硬度・高耐摩耗性を誇る一方で、加工や熱処理に高度なノウハウが求められる素材です。以下より切削・熱処理・研削・放電加工・表面処理の各工程において注意すべきポイントを見てみましょう。

切削加工(荒加工)

SKD11の焼なまし材(HBW 255程度)を、適切な刃物と条件で加工。切削抵抗が高いため、工具摩耗に注意が必要です。

熱処理(焼入れ+焼戻し)

焼入れ後の硬度はHRC58〜62程度を目安とし、焼戻しにより内部応力を緩和しながら靭性を確保します。

研削加工(仕上げ加工)

熱処理後、研削加工により寸法公差±0.01mm以内、表面粗さRa0.2〜0.4μmを達成可能です。

放電加工(EDM)

微細溝、鋭角部、内部形状など、切削では難しい形状加工に適用。放電加工後は軽い研削仕上げ推奨。

表面処理

窒化処理やPVD膜でさらに耐摩耗性・耐腐食性を高め、工具寿命を延長します。

SKD11の熱処理による硬度と靭性の変化

SKD11は、熱処理によって高硬度(HRC58〜62)と優れた耐摩耗性を発揮する冷間ダイス鋼です。適切な焼入れ・焼戻しプロセスを経ることで、工具や金型としての性能を最大化し、寸法安定性や耐久性を高めることが可能です。

熱処理とは

熱処理とは、材料に加熱・保持・冷却のプロセスを施すことで、硬度・強度・靭性・耐摩耗性といった機械的性質を制御する加工です。SKD11では、主に「焼入れ」と「焼戻し」を中心に行い、冷間加工に必要な高硬度・高耐摩耗性を付与します。

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種の記号 焼なまし温度℃(参考) 硬さ
HRC
熱処理条件℃ 硬さ
HRC
硬さ
HV
焼入れ 焼戻し
SKD11 830~880 徐冷 19.75 以下 1020 徐冷 550 空冷 58~62(※) 513
パンチ工業の参考値

HBWとHRC、HVの違い

HBW(ブリネル硬度)
焼なまし状態(熱処理前)の軟らかい硬度測定に使用(例:HBW 255程度)。
HRC(ロックウェル硬度Cスケール)
焼入れ後の硬い材料の硬度測定に使用(SKD11ではHRC55〜62が目安)。
HV(ビッカース硬度)
主に表面処理後(窒化処理など)の薄膜硬度測定に使用。

焼なまし(アニーリング)

焼なましは、内部応力除去と切削性向上を目的に、850〜900℃程度で加熱後、徐冷する工程です。焼なまし状態ではHBW255以下の軟らかさとなり、切削加工性が大きく向上します。

焼入れ(ハードニング、クエンチング)

焼入れは、材料を高温(通常1000~1050℃程度)まで加熱後、急冷して硬度を高める熱処理工程です。焼入れ後は非常に硬くなり靭性がないため、後工程の焼戻しにより、必要な硬度に調整します。SKD11では、焼入れ後にHRC58~62の高硬度を得ることができます。

焼戻し(テンパリング)

焼戻しは、焼入れ後の高硬度材料を再加熱して応力除去・靭性向上を図る工程です。500〜550℃付近での焼戻しにより、冷間加工時の割れやチッピングリスクを低減し、安定した耐摩耗性を実現します。SKD11では、焼戻し後にHRC58~62の高硬度を得ることができます。

SKD11の加工方法

SKD11の加工は、焼入れ後に非常に高い硬度を持つため、熱処理後の仕上げ加工には特殊な技術と適切な設備が求められます。以下では、SKD11における代表的な加工方法である「研削加工」と「放電加工」について、それぞれの特徴と注意点を解説します。

研削加工(主に熱処理後)

研削加工は、焼入れ後の高硬度材であるSKD11に対して、高精度な寸法仕上げと表面品質を得るために不可欠な加工法です。SKD11は硬く粘りもあるため、砥石選定(WA砥石、CBN砥石など)と研削条件の管理が非常に重要です。

使用機械例
円筒研削盤、平面研削盤、成形研削盤
適用場面
パンチ・ダイの外形仕上げ、ガイドピン・プレート部品の精密仕上げ

ポイント

ドレッシング(砥石の再生)を適切に行う

研削焼けを防ぐため、切込み量・冷却条件を最適化する

放電加工(EDM)

放電加工は、電気エネルギーを利用して金属を溶融・除去する加工方法であり、切削や研削では困難な微細形状や鋭角形状の加工に適しています。SKD11は電気伝導性も良好なため、放電加工で比較的高い加工効率が得られますが、加工後の微細クラック対策を忘れずに行う必要があります。

使用機械例
ワイヤーカット放電加工機、型彫り放電加工機
適用場面
細溝加工、複雑輪郭部、鋭角形状

ポイント

熱影響層(白層)の発生に注意し、必要に応じて軽研削で仕上げる

微細放電(ファイン放電)により、表面粗さと寸法精度を向上できる

SKD11の表面処理

SKD11は、熱処理による高硬度だけでなく、表面処理を施すことでさらに耐摩耗性・耐食性・耐久性を高めることが可能です。用途や使用環境に応じて適切な表面処理を選択することによって、金型・工具寿命の延伸や製品品質向上に直結します。

窒化処理(ガス窒化・イオン窒化)

窒化処理とは、高温で窒素を金属表面に拡散浸透させ、硬質な窒化層を形成する処理です。

特徴
  • 表面硬度が大幅に向上(HV900〜1200程度)
  • 耐摩耗性・耐焼付き性・耐疲労性の向上
適用例 パンチ・ダイ、スライド部品、ガイドピンなど

注意点として、窒化深さに応じて寸法変化が微小に発生するため、事前設計に織り込む必要があります。

めっき処理(硬質クロムめっきなど)

めっき処理は、金属表面に耐摩耗性・耐食性に優れた金属膜を形成する処理です。なお、厚付けめっき時には、寸法補正設計が必要になります。

特徴
  • 硬質クロムめっきにより表面硬度が向上(HV800程度)
  • 耐食性、防錆効果の付与
適用例 打抜きパンチ、ガイドポスト、摺動部品など

物理蒸着(PVD)

PVD(Physical Vapor Deposition)は、低温(約500℃以下)で高硬度膜(TiN、 TiCN、 AlCrNなど)を成膜するコーティング方法です。

特徴
  • 熱影響が小さいため寸法変化が少ない
  • 表面硬度大幅向上(HV2000以上も可)
適用例 精密パンチ、高サイクル金型部品、ミクロ加工用部品など

化学蒸着(CVD)

CVD(Chemical Vapor Deposition)は、高温(約800℃前後)でガス反応による膜を形成する技術です。ただし、CVD処理では高温による寸法変化が発生するため、焼戻し後の補正研削が推奨されます。

特徴
  • 膜密着性が高く、厚膜形成が可能
  • 耐摩耗性・耐食性に優れる
適用例 冷間鍛造金型、パンチ、プレス型部品

SKD11とSKD61の比較~どちらを選ぶべきか~

金型材料の選定において、SKD11(冷間ダイス鋼)とSKD61(熱間ダイス鋼)はどちらも非常に代表的な選択肢です。

しかし、両者は成分・特性・用途領域が大きく異なるため、製品仕様や加工条件に応じた適切な選択が不可欠です。ここでは、化学成分比較、特性の違い、選び方のガイドラインを整理して解説します。

SKD11とSKD61の化学成分比較

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元素 SKD11(質量%) SKD61(質量%) 主な役割
炭素(C) 1.40〜1.60 0.35〜0.42 硬さ・耐摩耗性
ケイ素(Si) 0.40以下 0.80〜1.20 焼き付き防止・靭性向上
マンガン(Mn) 0.60以下 0.25~0.50 脱酸作用・靭性補強
リン(P) 0.030以下 0.020以下 (不純物、できるだけ低減)
硫黄(S)
クロム(Cr) 11.00~13.00 4.80~5.50 耐摩耗性・耐食性向上
モリブデン(Mo) 0.70~1.20 1.00~1.50 高温強度・耐摩耗性
バナジウム(V) 0.80~1.15 微細粒形成、耐摩耗性

特性の違い

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比較項目 SKD11 SKD61
主用途 冷間プレス金型、せん断型、パンチ・ダイ モールド金型、ダイカスト金型、熱間鍛造型
主な加工温度 常温(冷間加工) 高温(熱間加工)
耐摩耗性 非常に高い(冷間摩耗耐性) 中程度(熱摩耗対応)
靭性 標準~やや低め(硬度重視) 高い(熱間靭性に優れる)
硬度(HRC) 58~62 38~55
コスト傾向 比較的安価 やや高価

選び方のガイド

金型材料を選ぶ際には、加工環境や使用条件に応じた適材適所の判断が不可欠です。特に冷間加工に適したSKD11と、熱間用途に強いSKD61は、以下のように適するケースを見極める必要があります。

SKD11が適するケース

冷間プレス金型、せん断金型、圧延ロール、パンチ・ダイなど、常温環境での高硬度・高耐摩耗性が求められる用途に適しています。

SKD61が適するケース

射出成形用モールド金型、ダイカスト金型、熱間鍛造型など、高温環境下での耐熱性・靭性が重視される用途に適しています。

ポイント

「使用温度帯」「繰り返し負荷の種類(冷間摩耗か熱間疲労か)」を基準に選定することで、最適な材料選びができます。

まとめ

SKD11は、高硬度・高耐摩耗性・高耐圧縮性を兼ね備えた冷間ダイス鋼として、プレス金型、せん断型、冷間鍛造型など、様々な製造現場で長年に渡って支持されてきた材料です。

適切な熱処理(焼入れ・焼戻し)や、用途に応じた研削・放電加工、さらに必要に応じた表面処理(窒化・めっき・PVD)を組み合わせることで、製品寿命の延長と加工コスト最適化を実現することができます。

また、SKD61との違いを正しく理解し、冷間加工用途ではSKD11、高温加工用途ではSKD61といった適材適所の選定を行うことで、より高品質な製品づくりが可能となります。

パンチ工業では、SKD11をはじめとする高性能材料など、金型部品の材料選定から部品製作表面処理提案にに至るまでトータルでご提案いたします。お客様の製品特性・加工条件に合わせた最適なご提案をさせていただきますので、ぜひお気軽にパンチ工業までご相談ください。