SKD61とは?用途・特徴や加工法、SKD11との比較

金型材料として広く知られる「SKD61」は、耐熱性・靭性・耐摩耗性に優れた合金工具鋼であり、特にモールド金型や熱間鍛造用金型において高い評価を得ています。一方、同じく金型材料として広く用いられる「SKD11」とは特性や用途などに違いがありますので、正しい理解と使い分けが重要です。

本記事では、SKD61の基本的な特徴、用途、成分組成、加工フロー、熱処理特性などについて解説するとともに、SKD11との違いを比較し、選定のポイントをご紹介します。

SKD61の基礎情報

SKD61は、熱間加工に最適な特性を備えた代表的な金型用材料です。まずはSKD61の基礎情報と、熱間加工で求められる要件について見てみましょう。

SKD61とは

SKD61とは、耐熱性・靭性・耐摩耗性に優れた熱間ダイス鋼であり、モールド金型やダイカスト金型など高温環境下で使用される金型材料です。
なお、SKD61は、JIS規格( G 4404:合金工具鋼鋼材)に規定されている材料です。「SKD」は、S:Steel(鋼)、K:Kougu(工具)、D:Dies(金型)を示し、61は分類記号です。

熱間加工とは

金属材料を高温に加熱した状態で、塑性変形を加える加工方法を指します。材料を軟らかくすることで、比較的小さい力でも大きな変形が可能になり、複雑形状の部品や大型部材を効率よく成形することができます。この熱間加工の材料には以下の特性が求められますが、SKD61は十分に要求を満たすことが可能です。特に熱間鍛造、ダイカスト、ホットスタンピングなどの工程に最適な材料と言えます。

熱間加工で求められる材料特性
高温時でも強度と靭性を維持できること
熱衝撃(急激な温度変化)に耐えられること
繰り返しの加熱・冷却に対して割れにくいこと

SKD61の主な用途

SKD61は、耐熱性・靭性・耐摩耗性に優れる特性から、高温環境下や繰り返し負荷がかかる過酷な条件でも性能を発揮できる材料です。そのため、モールド金型、ダイカスト金型、熱間鍛造用金型をはじめ、様々な分野で使用されています。

主な使用業界・製品例

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使用分野 主な用途例 要求特性
プラスチック成形(金型モールド) 射出成形用金型、プラスチック製品用モールド型 耐摩耗性、熱伝導性、耐熱疲労性
ダイカスト(金型鋳造) アルミダイカスト金型、亜鉛ダイカスト金型 熱割れ防止、耐溶損性、寸法安定性
熱間鍛造(金型製作) 自動車部品用鍛造型(クランクシャフト、ギアなど) 高温下での靭性、熱間強度
ホットスタンピング(高温プレス) 自動車ボディ部材(ホットプレス成形部品) 高温延性、加工硬化耐性
その他耐熱部品 熱間せん断刃、押出ダイス、ピストンリングなど 耐摩耗性、高温疲労強度

用途ポイントまとめ

SKD61の主な用途ごとのポイントは下記の通りです。

モールド金型での使用

SKD61は、特にプラスチック射出成形用金型で高い耐久性を発揮し、金型寿命の延伸とメンテナンス回数の低減に寄与します。

ダイカスト金型での使用

高温下での耐溶損性、耐熱疲労性に優れ、複雑形状の鋳造部品を安定的に生産する上で欠かせない材料です。

熱間鍛造型での使用

金属素材を高温下で成形するため、熱割れや工具摩耗に強いSKD61が重宝されます。

SKD61の成分

SKD61は、耐熱性・耐摩耗性・靭性をバランス良く実現するために、複数の合金元素を最適に配合した材料です。その成分設計によって、高温下でも変形しにくく、耐久性に優れた性能が引き出されています。

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SKD61の標準成分

種の記号 C
炭素
Si
ケイ素
Mn
マンガン
P
リン
S
硫黄
Ni
ニッケル
Cr
クロム
Mo
モリブデン
W
タングステン
V
バナジウム
Co
コバルト
SKD61 0.35~0.42 0.80~1.20 0.25~0.50 0.020 以下 4.80~5.50 1.00~1.50 0.80~1.15

出典:JISC(日本産業標準調査会)

成分設計のポイント

SKD61の優れた耐熱疲労性や靭性は、以下の精密な成分設計に支えられています。

  • クロム+モリブデン+バナジウムの組み合わせにより、耐摩耗性と高温強度を両立
  • ケイ素による焼き付き防止効果が、ダイカストや熱間鍛造型に有効
  • 炭素量の最適化により、靭性と硬度のバランスを調整

SKD61加工の流れ

SKD61は高硬度・高靭性を持つ優れた材料ですが、最適な加工フローを踏まえて適切に工程管理することが、製品性能を最大限に引き出すポイントです。

SKD61加工の標準フロー

工程 内容 ポイント
切削加工 材料を所定形状に荒加工(熱処理前) 高送り・荒削りで工程短縮
熱処理 焼入れ・焼戻しによる硬度・靭性付与 適正温度管理と徐冷・空冷が重要
研削加工・切削加工 熱処理後、寸法精度・表面精度を仕上げ加工 高精度な真直度・面粗さ確保
放電加工 微細形状や深い溝など、切削困難な箇所を加工 微細放電により割れリスク抑制
表面処理(必要時) 窒化処理・PVDコーティングなど 耐摩耗性・耐熱性向上

各加工のポイント

以下はSKD61を用いた加工ごとのポイントとなります。このような加工フローを適切に設計・管理することで、SKD61本来の高性能を最大限引き出す製品製作が可能になります。

切削加工

通常は焼入れ前の状態(HBW 229以下)で切削し、粗形状を整えます。超硬工具を用いれば、熱処理後でも加工は可能ですが、切削抵抗が大きくなるため注意が必要です。

熱処理

焼入れは1020℃程度で加熱後、徐冷。焼戻しは550℃前後で空冷し、HRC38~55以上の硬度を確保します。

研削加工

熱処理後に、要求寸法精度(μm単位)や表面粗さ(Ra0.4~0.8μm程度)を達成するため、円筒研削盤・平面研削盤などで精密仕上げを行います。

放電加工

深溝や鋭角部、切削困難な箇所は放電加工機(EDM)で加工します。微細放電を使うことで熱影響層の抑制と、割れリスク低減を図ります。

表面処理(オプション)

窒化処理、PVDコーティング(TiN、TiCN、AlCrNなど)により、さらなる耐摩耗性・耐焼き付き性を付与することができます。

SKD61の熱処理による硬度と靭性の変化

SKD61は、熱処理によって最適な硬度・靭性バランスを引き出すことができる合金工具鋼です。適切な焼入れ・焼戻し条件を設定することで、耐摩耗性と衝撃耐性の両立が可能になり、金型や高耐久部品に求められる性能を実現できます。

熱処理とは

熱処理とは、材料に加熱・保持・冷却のプロセスを施すことで、硬度・強度・靭性・耐摩耗性などの機械的性質を制御する加工を指します。特に金型材料においては、寸法安定性・耐久性・加工性を最適化するために不可欠なプロセスです。

SKD61の熱処理では、通常「焼入れ」「焼戻し」を中心に行い、硬度・靭性のバランスを調整します。ここでは、熱処理前の焼なまし状態と、熱処理の「焼入れ」「焼戻し」について紹介するほか、ぞれぞれの硬度を比較していきます。

焼なまし(アニーリング)

焼なましとは、材料を820~870℃に加熱後、徐冷して内部応力を除去し、組織を均一化する工程です。加工前の素材(プレハードン材)では、HBW229以下程度の軟らかさを持たせ、後工程の切削性を高めます。

焼入れ(ハードニング、クエンチング)

焼入れとは、材料を高温(通常1020℃程度)まで加熱後、急速に冷却して硬度を高める熱処理です。焼入れ後は非常に硬くなり靭性がないため、後工程の焼戻しにより、必要な硬度に調整します。

焼戻し(テンパリング)

焼戻しとは、焼入れ後の高硬度状態を安定させるため、適度な温度(550℃付近)で再加熱・空冷する工程です。焼戻しにより内部応力を緩和し、靭性を高めつつ、寸法安定性や割れ抵抗性を向上させます。SKD61では、焼戻し後HRC38~55以上の硬度が得られます。

SKD61の二次硬化

SKD61は、焼戻し工程で再び硬度が上昇する「二次硬化特性」を持っています。これにより、一般的な焼入れ材よりも高温下での寸法安定性・耐摩耗性が向上し、過酷な熱間加工条件下でも高い性能を維持できます。

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種の記号 焼なまし温度℃(参考) 硬さ
HRC
熱処理条件℃ 硬さ
HRC
硬さ
HV
焼入れ 焼戻し
SKD61 820~870 徐冷 20.6以下 1020 徐冷 550 空冷 38~55以上(※) 513
パンチ工業調べの参考値
硬度の単位:HBWとHRC、HVの違い
HBW(ブリネル硬度)
焼なまし状態(熱処理前)の硬さを示す。軟らかい材料の測定に適する。
HRC(ロックウェル硬度Cスケール)
焼入れ後の硬さを測定。中~高硬度材料(HRC40~60程度)に最適。
HV(ビッカース硬度)
表面処理層(窒化層やコーティング層)の微小硬度測定に使用される。

SKD61の加工方法

SKD61は熱処理を施すことで高い硬度を得られる一方、加工がやや難しくなる特性を持っています。そのため、工程(切削・研削・放電加工)ごとに適切な条件設定と工具選定をすることが非常に重要です。

切削加工(主に熱処理前)

切削加工は、主に焼入れ前の「焼なまし材」状態で実施されます。柔らかい状態(HBW229以下)なので、一般的な工具でも高効率に加工が可能ですが、高精度部品では熱処理後の仕上げ切削が求められる場合もあります。

使用工具例
ハイス工具(一般)、超硬工具(高硬度材対応)

ポイント

熱処理後は超硬工具使用+送り速度減少で対応

研削加工(主に熱処理後)

研削加工は、熱処理後に寸法精度・形状精度・表面粗さを仕上げる工程です。研削によって、μm単位の寸法管理や、Ra0.2μm以下の鏡面仕上げも可能になります。

使用機械例
円筒研削盤、成形研削盤、ジグ研削盤

ポイント

焼き戻し後の安定した硬度(HRC45~50)で仕上げると、形状精度が向上しやすい。

放電加工(EDM)

放電加工は、切削加工や研削加工では困難な微細形状や鋭角部の加工に使用されます。SKD61は電気伝導性が良好なため、放電加工による精密仕上げにも適しています。

使用機械例
ワイヤーカット放電加工機、型彫り放電加工機

ポイント

微細放電加工で熱影響層(白層)を最小限に抑え、後加工(軽研削)で仕上げると良好な表面品質が得られます。

SKD61の表面処理

SKD61は本来、高い耐熱性・耐摩耗性を備えていますが、表面処理を施すことでさらに耐久性・耐食性を向上させることが可能です。特に微細な摩耗や焼き付きが問題となる高サイクル成形や熱間加工用途では、適切な表面処理が製品寿命延長に大きく寄与します。

物理蒸着(PVD)

PVD(Physical Vapor Deposition)は、金属または金属化合物を蒸発・イオン化させ、薄膜として金属表面にコーティングする技術です。

特徴
  • 低温処理(約500℃以下)で熱変形リスクが小さい
  • 高硬度膜(TiN、TiCN、AlCrNなど)を成膜できる
  • 耐摩耗性・耐熱性向上に効果的
適用例 金型の摩耗抑制、金属射出成形用金型、超精密部品の耐久強化

特にSKD61にPVD処理を施すと、放電加工後の微細クラック抑制や高温摩耗耐性の強化に大きな効果を発揮します。

化学蒸着(CVD)

CVD(Chemical Vapor Deposition)は、ガス状の原料を高温反応させて、金属表面に薄膜を形成する技術です。

特徴
  • 高温処理(800℃前後)が必要
  • 膜密着性が高く、厚膜成膜が可能
  • 耐摩耗性だけでなく、耐食性にも優れる
適用例 ダイカスト金型、押出ダイス、耐食・耐熱部品

ただし、CVD処理では高温による寸法変化のリスクがあるため、事前の寸法補正設計や後加工(研削仕上げ)を考慮する必要があります。本来的にSKD61は素性が良いため、「使用条件に応じてPVD/CVDを使い分ける」ことで、金型寿命や製品品質をさらに向上させることができます。

SKD61とSKD11の比較・選び方

金型材料の選定において、SKD61とSKD11は非常に代表的な選択肢ですが、両者は用途や特性に明確な違いがあります。用途に適した材料を正しく選ぶことが、製品の耐久性や加工効率に直結します。

SKD61とSKD11の化学成分比較

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元素 SKD61(質量%) SKD11(質量%) 主な役割
炭素(C) 0.35~0.42 1.40~1.60 硬さ・強度
ケイ素(Si) 0.80~1.20 0.40以下 焼き付き防止・靭性向上
マンガン(Mn) 0.25~0.50 0.60以下 靭性改善・脱酸作用
リン(P) 0.020以下 0.030以下 (不純物、できるだけ低減)
硫黄(S)
クロム(Cr) 4.80~5.50 11.00~13.00 耐摩耗性・耐食性
モリブデン(Mo) 1.00~1.50 0.70~1.20 耐摩耗性・高温強度
バナジウム(V) 0.80~1.15 微細粒形成、耐摩耗性

出典:JIS G 4404より整理

特性の違い

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比較項目 SKD61 SKD11
主用途 モールド金型、ダイカスト金型、熱間鍛造型 プレス金型、せん断型、冷間金型
耐熱性 高い(熱間加工向き) 標準的(冷間加工向き)
耐摩耗性 中程度(熱摩耗に対応) 非常に高い(冷間摩耗に強い)
靭性 高い(熱間割れに強い) 標準(硬度重視型)
硬度(HRC) 焼入れ後38~55程度 焼入れ後58~62程度
コスト傾向 やや高い 比較的安価

選び方のガイド

SKD11とSKD61は、いずれも優れた金型材料として広く利用されていますが、使用環境や目的によって適材適所の選定が求められます。

SKD61を選ぶべきケース

熱間鍛造金型、ダイカスト金型、射出成形用モールド金型など、高温環境下で使用される金型。

SKD11を選ぶべきケース

冷間プレス金型、せん断型、パンチ・ダイなど、常温下で高硬度・高耐摩耗性が求められる金型。

ポイント

「使用温度帯」と「摩耗の種類(熱摩耗か冷間摩耗か)」を基準に選ぶと間違いがありません。

まとめ

SKD61は、耐熱性・靭性・耐摩耗性をバランス良く備えた優れた合金工具鋼であり、モールド金型やダイカスト金型、熱間鍛造型など、過酷な高温環境下で使用される製品に不可欠な材料です。

適切な熱処理(焼入れ・焼戻し)や表面処理(PVD・CVD)を施すことで、さらなる性能向上と金型寿命延長が可能になります。また、SKD11との違いを正しく理解し、用途に応じた材料選定を行うことで、製品品質とコスト最適化の両立が図れます。

パンチ工業では、SKD61をはじめとする高性能工具鋼の特性に精通し、金型部品の材料選定から部品製作表面処理提案に至るまでトータルで対応しております。ぜひお気軽にご相談ください。