旋盤加工とは?用途や他の加工との使い分けを紹介

金属加工における基本技術の一つである「旋盤加工」は、円筒形状の部品加工に不可欠な工程です。高い精度と効率を両立できる旋盤加工は、自動車部品や機械要素部品、精密機器など、幅広い分野で活用されています。

本記事では、旋盤加工の基本概念や他の加工法(フライス加工・研削加工)との違い、旋盤加工の特徴、種類、使用素材、発生しやすいトラブルとその対策まで、体系的に解説します。

旋盤加工とは

旋盤加工は、金属や樹脂の円筒形部品を高精度かつ効率的に加工できる、機械加工の基本技術です。以下は、旋盤の仕組み、加工の種類、他の加工法との違いを紹介します。

旋盤とは

旋盤とは、工作物(材料)を回転させ、固定された刃物(バイト)を当てることで、金属や樹脂を削り出す工作機械です。回転運動を主とするため、円筒形状や円盤形状の部品加工に非常に適しており、機械加工の基本設備の一つとされています。

旋盤加工とは

旋盤加工とは、旋盤を使って、工作物(材料)に切削工具を当てながら形状を加工する方法です。外径の切削、内径の加工、溝切り、ねじ切り、端面加工(正面加工)など、多彩な加工が可能です。

単に丸棒を削るだけでなく、寸法公差の厳しい精密部品の製造や、滑らかな表面仕上げを求められる部品にも幅広く利用されています。

旋盤加工・フライス加工・研削加工の違い

旋盤加工・フライス加工・研削加工は、いずれも金属や樹脂を削る加工法ですが、加工方法、適した形状、精度、コストなどに大きな違いがあります。用途や目的に応じて使い分けることで、製品精度向上やコスト最適化が実現できます。

スクロールできます

比較項目 旋削加工(旋盤) フライス加工 研削加工(研磨)
加工方法 工作物を回転させて固定した工具で削る 工具を回転させて工作物を削る 砥石を使って微細に削る
適した形状 円筒形状 平面、溝、曲面などの複雑な形状 高精度な仕上げ
加工精度 非常に高精度(円筒形状限定) 高精度(旋削より自由度が高い) 最高精度(μm単位の加工が可能)
表面仕上げ 滑らか(切削条件による) 比較的粗い(仕上げ加工が必要) 非常に滑らか
加工速度 高速(旋削は効率が良い) 旋削より遅い(重切削が可能) 低速(時間がかかる)
コスト 比較的安価(シンプルな機械構成) 中程度(工具・設備費用がかかる) 高価(砥石・研削盤が必要)

旋盤加工の特徴

旋盤加工は、単純な円筒形状だけでなく、ねじ切り・溝加工・内径加工など多様な工程に対応できるため、加工の柔軟性と高い寸法精度を両立できる技術です。また、工具や加工条件を最適化することで、仕上げ面粗さや公差精度も高レベルで管理可能です。

旋盤加工のメリット

以下は旋盤加工の主なメリットです。

高精度な寸法加工が可能
回転中心を基準に加工するため、同心度・真円度・軸方向寸法精度が非常に高い。
表面仕上げが良好
適切な切削条件を設定すれば、滑らかな表面品質を得ることができる。
多様な加工に対応可能
外径加工・内径加工・ねじ切り加工・テーパ加工・突っ切り加工など、多様な工程を1台で対応できる。
コストパフォーマンスが良い
シンプルな機構のため設備コストが比較的低く、加工効率も高いため、中量生産にも向く。

旋盤加工が活用される業界・製品

旋盤加工は、高精度・高効率で円筒形状を加工できるため、自動車・電子機器・医療機器など非常に幅広い業界と製品分野で活用されています。以下は、代表的な業界と、具体的な製品例です。

業界 代表的な加工製品 特徴・要件
自動車 シャフト、ピストンピン、ギア部品 高精度な寸法公差、耐摩耗性、量産性
電子機器 モーターシャフト、小型精密軸 小径・薄肉加工、高速回転対応
医療機器 手術器具部品、インプラント用ピン バリのない滑らかな仕上げ、生体適合素材対応
産業機械 回転軸、ロールシャフト、スピンドル部品 強度・剛性確保、動的バランス
航空宇宙 タービンシャフト、ベアリングハウジング 耐熱合金対応、超精密な真円度・同心度要求

旋盤加工の主な種類

旋盤加工は、回転する素材に刃物(バイト)を当てることで様々な加工を行いますが、目的や加工部位によって加工方法が細かく分類されています。

外径加工

外径加工は、素材の外周を削って、所定の直径に整える基本的な旋盤加工です。シャフトやピンなど、円筒形状の部品の寸法精度・表面仕上げを決める最も重要な工程です。回転中心を正確に保ちながら加工するため、同軸度・真円度が非常に高くなります。

テーパ加工

テーパ加工は、外径や内径に対して一定の角度を持たせて削る加工方法です。軸受けや継手部などで、滑り合わせや圧入性を向上させるために使われます。旋盤の刃物送り角度を傾けたり、心押し台をずらしたりする方法でテーパ形状を作り出します。

内径加工

内径加工(ボーリング加工)は、既存の穴を拡大したり、内径面を高精度に仕上げたりする加工です。ベアリング挿入部や圧入部など、寸法公差が厳しい内径部品の仕上げに不可欠な工程です。専用の内径バイトを使用し、滑らかな内壁を作り上げます。

溝加工

溝加工は外径または内径に対して、一定幅の溝を掘る加工方法となり、「Oリング溝」や「スナップリング溝」など、組付け部品の保持や密封に必要な形状を作ります。溝幅・溝深さを厳密に管理するため、専用の溝入れバイトを使用します。

突っ切り加工

突っ切り加工は、素材を切断するための加工です。旋盤上で部品を切り離す際に行われ、溝加工と似ていますが、最終的に部品を分離する点が異なります。細い突っ切りバイトを用い、切削抵抗を最小限に抑えながら正確に切断します。

正面加工

正面加工(端面加工)は、素材の端面をフラットに仕上げる加工方法です。回転軸と垂直方向に刃物を進め、端面を整えることで、組立時の当たり面や基準面を形成します。外径加工に先立って実施されることも多く、寸法基準となる重要な加工です。

ねじ切り加工

ねじ切り加工は、外径または内径に対して、らせん状の溝(ネジ山)を形成する加工です。ボルト・ナットなどの締結部品を製作するうえで必須の工程であり、ピッチ・角度・深さを正確に制御する必要があります。専用のねじ切りバイトを用いて、同期送り制御を行いながら加工します。

穴あけ加工

穴あけ加工(センタードリル・ドリル加工)は、素材に新たな穴を開ける基本的な工程です。この後の内径加工やタップ加工などにつなげるための下穴を作る役割もあります。旋盤にドリルを取り付け、回転中心に対して正確な位置に穴を開けます。

旋盤の種類と工具

旋盤加工は、使用する旋盤の種類によって加工できる範囲や精度、生産効率が大きく変わります。また、切削に使用する工具(バイト)も、加工目的に応じて適切に選定する必要があります。

旋盤の種類と工具

旋盤加工は、その用途や目的に応じて多様な旋盤機と刃物(バイト)を使い分ける必要があります。ここでは、汎用旋盤・NC旋盤・卓上旋盤・複合旋盤などの代表的な旋盤の特徴と適用シーンや、加工内容に応じたバイトの種類や素材選定のポイントを見てみましょう。

汎用旋盤

もっともオーソドックスな旋盤で、手動で刃物やテーブルを操作しながら加工を行います。多品種少量生産や試作加工に向いており、柔軟な対応が可能ですが、オペレーターの技能に大きく依存します。

NC旋盤

数値制御(NC: Numerical Control)によって刃物やテーブルの動きを自動化した旋盤です。同一形状を繰り返し高精度に加工できるため、中量産・量産向けの加工に適しています。プログラムによる自動運転が可能なため、加工精度の安定と省力化に貢献します。

卓上旋盤

小型で設置スペースを取らない簡易型旋盤です。主に小物部品の加工や教育用途、研究開発現場で使用されます。本格的な量産には向きませんが、試作や少量加工に非常に便利です。

複合旋盤(複合加工機)

旋削加工とフライス加工を1台でこなせるハイブリッド型旋盤です。主軸回転に加えて、工具側も多軸制御されるため、穴あけ・溝加工・側面切削なども一気に完了できます。加工時間短縮や工程集約によるコスト削減に効果があり、近年導入が進んでいます。

旋盤加工に使われる刃物(バイト)

旋盤加工では、「バイト」と呼ばれる専用の刃物を使用して切削を行います。バイトの種類や形状は、加工内容や対象材質に応じて使い分けます。

バイトの主な種類

種類 特徴 主な用途
外径バイト 外周を切削する標準的なバイト シャフト外径加工、テーパ加工など
内径バイト 内径(穴内部)を切削するバイト ボーリング加工、内径仕上げ
突っ切りバイト 素材を切断するためのバイト 突っ切り加工、部品分離
ねじ切りバイト ネジ山を加工するために設計されたバイト ボルト、ナット用のねじ加工
溝入れバイト 特定幅の溝を掘るために使用されるバイト Oリング溝、スナップリング溝加工

バイト素材について

バイトの選定は、被削材の硬さ・切削速度・求められる精度に合わせて最適化する必要があります。以下のように目安を押さえておくと良いでしょう。

超硬合金バイト
耐摩耗性に優れ、鉄・ステンレス・難削材に適応。
ハイスバイト(高速度工具鋼)
加工性良好で汎用用途に向く。
セラミックバイト
超硬より高温に強く、高速切削用。

旋盤加工で使用される素材とその特性

旋盤加工では、加工対象となる素材の特性によって、使用するバイトの種類や切削条件が大きく異なります。各素材の特徴を理解することで、加工精度向上や工具寿命の延長、生産効率化を図ることが可能です。

以下のように、素材ごとの特性を正しく理解し、最適な切削条件を設定することが、旋盤加工の品質向上とコスト最適化に繋がります。

炭素鋼(S45Cなど)

炭素鋼は、鉄に適量の炭素を添加した材料で、汎用性が高く最も一般的に使用される金属素材のひとつです。強度と加工性のバランスが良く、熱処理による硬度調整も可能なため、機械構造部品やシャフト、ギアなど多様な用途に使われます。

特徴
切削性良好、コストパフォーマンス高い
加工注意点
高炭素材は焼入れ硬化後、工具摩耗に注意

ステンレス鋼(SUS304など)

ステンレス鋼は、耐食性に優れた合金鋼で、食品機械や医療機器、建材など幅広い分野で使用されています。ただし、粘り強く加工硬化しやすいため、旋盤加工時には刃物選定と切削条件の最適化が重要です。

特徴
耐腐食性、表面光沢が得やすい
加工注意点
低速・高送り・鋭利なバイトを使用し、発熱抑制が必要

アルミニウム(A5052など)

アルミニウムは、非常に軽量で熱伝導性が高く、加工性にも優れた非鉄金属です。
航空機部品、電子機器筐体、自動車部品などに広く利用されており、切削抵抗が小さいため高速加工が可能です。

特徴
軽量、高速切削向き、表面仕上げ良好
加工注意点
切りくず排出性に注意し、バリ防止・工具詰まり防止を意識する

旋盤加工のトラブルと対策

旋盤加工では、高精度な加工を目指しても、現場ではさまざまなトラブルが発生することがあります。特に「ビビリ(振動)」は加工品質の低下だけでなく、工具寿命の短縮や設備への負荷増大にも直結するため、的確な対策が不可欠です。

旋盤加工時の「ビビリ」とは

ビビリとは、切削中に工具や素材が微細に振動し、加工面にチャターマーク(周期的なうねりや凹凸)を発生させる現象を指します。この現象が起こると、加工精度が低下し、表面粗さが悪化、さらに工具摩耗や破損のリスクも高まります。

主な原因は以下となり、特に長尺ワークや突出し量が大きい場合、ビビリが発生しやすくなります。

  • 工具剛性不足(細いバイト使用時)
  • ワークの固定不良(チャックの把持力不足)
  • 加工条件不適切(送り過多、切削速度過小)
  • 工具先端の摩耗・刃先チッピング

ビビリの対策

ビビリを抑制するためには、次のようなアプローチが効果的です。

工具剛性を高める
太く短いバイトを使用し、突出し量を最小限に抑える。
ワークの固定力を強化する
チャック圧力を適切に設定し、センター押さえを活用する。
切削条件を見直す
切削速度を上げ、送り量を下げる(ビビリ周波数を変える)。
工具のメンテナンスを徹底する
鈍った刃先は早めに交換し、常に鋭利な状態を維持する。
ダンパ付きホルダーを活用する
特殊な防振バイトや振動抑制機構付きホルダーを使用することで、ビビリの発生を根本から抑えることが可能。

まとめ

旋盤加工は、金属や樹脂素材に対して高精度な円筒形状加工を実現できる、機械加工の基本かつ重要な技術です。外径加工や内径加工、ねじ切り加工、テーパ加工、溝加工など、多様な加工が可能であり、部品設計や製造現場において非常に幅広く活用されています。

また、素材特性に応じた工具選定や切削条件の最適化、ビビリなどのトラブル対策を適切に講じることで、加工精度向上・生産性向上・コスト最適化を実現できます。

パンチ工業では、多種多様な旋盤加工機を保有しており、高い技術力で高品質な金型部品を提供しています。