パンチ工業株式会社 PUNCH INDUSTRY CO., LTD
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打抜きパンチの材質選定

 プレス金型の打抜きパンチで良く使われる材質は、SKD11(合金工具鋼)、SKH51(高速度工具鋼)、SKH40(粉末高速度工具鋼)があり、生産数量や被加工材の種類などで、お客様ごとに基準を持って使い分けがされています。しかし、加工性の悪い被加工材が増えていることや製品精度の向上によりパンチの寿命が低下する事例が多々見受けられるようになり、対策を考えるときに材質の選定で悩むというお話をよく伺います。今回このコーナではこのような材質選定での悩みを少しでも解消するために、事例をあげて材質変更の目安を紹介します。
※事例は一般的なもので、金型精度やプレス機精度、加工条件により異なることがありますのでご了承ください。

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■事例1:打抜き力が高く、パンチ破損が発生する(図1)

 パンチにかかる荷重は被加工材の硬さや厚さに比例して大きくなり、パンチ刃先断面にかかる単位面積あたりの荷重(以下、圧縮応力と呼ぶ)が大きくなるほど破損が発生しやすくなります。よって、破損が発生しそうなパンチを設計するときは圧縮応力を計算することが重要となり、次の式より求めることができます。

圧縮応力σc[kgf/mm2]
被加工材厚さt[mm]
× 打抜き部輪郭長さl[mm]
× せん断抵抗τ[kgf/mm2]
÷ 刃先断面積A[mm2]
せん断抵抗τ[kgf/mm2]
≒ 引張強さσc[kgf/mm2]×0.8

例えば、ステンレス鋼板SUS304板厚2.0mmにφ2.5の丸穴を材質SKD11のパンチでプレス加工する場合は、次のようになります(引張強さは表1参照)。

圧縮応力
2.0×(2.5×π)×(70×0.8)
÷{0.25×π×2.52}
=179.2[kgf/mm2]

この時、パンチ材質の圧縮耐力(残留ひずみが0.2%生じる圧縮力)は図2のようになり、熱処理に問題がなければ基地の硬さに比例して大きくなります。実際、SKD11で硬さ60HRCの場合、圧縮耐力は250[kgf/mm2]となりますが、塑性変形は180[kgf/mm2]前後(圧縮耐力の70%程度)で生じるので、それ以下での設計が望ましくなります。よってこの例の場合、材質SKD11では塑性変形の発生が考えられ、圧縮耐力の高いSKH40を選択したほうが破損に対して強くなります。 また、これ以外の注意点としては、パンチの力を受けるバッキングプレートは熱処理により充分に硬度を上げ、打抜き力を吸収できる厚さを確保する必要があります。これによりバッキングプレートの凹みを防止し、パンチつば部の破損を防止するとともに、パンチプレートのパンチ挿入穴の摩耗を防止します。金型構造上充分な厚さを確保することが出来ない場合は、定期的にバッキングプレートの凹みを点検し、凹みが発生している場合は平らに修正することが重要になります。
図1 破損状態
図1 破損状態
JIS記号 引張強さ
[kgf/mm2]
降伏強さ
[kgf/mm2]
全伸び
[%]
硬さ
[HRB・Hv]
SPCC 33 22 44 HRB49
SPCD 32 20 45 HRB45
SPCE 33 18 46 HRB44
SS400 46 27 23 -
S20C 40 - - -
S50C 50 - - -
SUS301 85 28 64 Hv172
SUS304 70 26 56 Hv175
SUS430 53 34 28 Hv165
C2600P-H 48 40 30 Hv156
C5191P-H 65 61 16 Hv205
C5210P-H 65 55 30 Hv205

表1 代表的な材料の機械的性能

図2 硬さと圧縮耐力の関係 出所:大同特殊鋼(株) (※DEX40:JIS記号SKH40)

図2 硬さと圧縮耐力の関係
出所:大同特殊鋼(株)
(※DEX40:JIS記号SKH40)

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■事例2:打抜き力が高く、パンチ摩耗がはやい(図3)
 耐摩耗性が不足している場合と、その他の原因により摩耗がはやい場合があります。
耐摩耗性の不足は、打抜き力が大きいことにより、通常よりも摩耗がはやく発生します。その場合は耐摩耗性の高い材料へ変更することで問題が解決され、一般的にはSKD11→SKH51→SKH40のように材質を変更していきます(図4:抜きパンチの材質選定表参照)。
その他の原因としては、塑性変形が発生する圧縮力以上(SKD11で60HRCの場合180[kgf/mm2]前後)の加工でパンチ先端にふくれが発生し、ふくれが原因で摩耗がはやく発生することがあります(図5)。この場合の対策としては圧縮耐力が高い材料に変更します(図2)が、特にコーティング処理をしたパンチではパンチ刃先のふくらみがコーティング膜に亀裂をつくり、膜剥離につながるので余裕のある材質選定が望まれます。この問題は、材料が硬く被加工材にあいた穴がパンチ外径よりも大きくなる場合はあまり顕在化しません。しかし、被加工材にあいた穴がパンチ外径と同じか小さくなる場合は顕著に問題が表面化します。
図3 磨耗状態

図3 摩耗状態

図4 抜きパンチの材質選定表  出所:大同特殊鋼(株) (※MH51:JIS記号SKH51) 図5 パンチ先端のふくれと磨耗
図4 抜きパンチの材質選定表
出所:大同特殊鋼(株) 
(※MH51:JIS記号SKH51)
図5 パンチ先端のふくれと磨耗
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■事例3:SKD11でせん断抵抗の大きい加工をしたところ、パンチ摩耗がはやい。

 せん断面が大きい場合、打抜き加工で発生する加工熱によりパンチ素材がなまり、摩耗がはやくなる場合があります。これはパンチ材質にSKD11を使用している場合に多く発生します。図6・7は、板厚7.8mmの軟鋼板、クリアランス0.3mm(板厚の4%)で加工した場合の被加工材の上昇温度を示します。図8は、被加工材の違いと加工速度の違いによる切刃平均温度を示し、これらによるとパンチ温度が300度を超えることは条件によりまれに発生します。通常、SKD11は200度の低温焼戻しで使われることが多く、パンチ温度が300度近く上がると焼きなましされて硬度が低下し摩耗が早くなります。対策として、スタンピングオイルにより充分に冷却する方法がありますが、高温焼戻しで使用するSKD11改良鋼への変更も有効となります。図9はSKD11改良鋼の焼戻し曲線で、この材料へ変更することでSKD11よりも硬い62HRCが得られるとともに、PVDコーティング(処理温度500度前後)も母材が変化することなく処理が可能となるメリットがあります(パンチ工業製品は高温焼戻しをするSKD11改良鋼を使用しています)。

図6 被加工材の上昇温度の等温線(t=7.8mm軟鋼板、Cl=0.3mm、クランクプレス使用)(柳原、斉藤、中川) 出所:プレス加工データブック(日刊工業新聞社) 図7 最高温度を記録した被加工材の温度上昇線図 (t=7.8mm軟鋼板、Cl=0.3mm、クランクプレス使用)(柳原、斉藤、中川) 出所:プレス加工データブック(日刊工業新聞社) 図8 各被加工材のプレス打抜き中の 切刃平均温度 (柳原、斉藤) 出所:プレス加工データブック(日刊工業新聞社)
図6 被加工材の
上昇温度の等温線

(t=7.8mm軟鋼板、Cl=0.3mm、クランクプレス使用)(柳原、斉藤、中川)
出所:プレス加工データブック(日刊工業新聞社)
図7 最高温度を記録した
被加工材の温度上昇線図

(t=7.8mm軟鋼板、Cl=0.3mm、クランクプレス使用)(柳原、斉藤、中川)
出所:プレス加工データブック(日刊工業新聞社)
図8 各被加工材のプレス打抜き中の切刃平均温度
(柳原、斉藤)
出所:プレス加工データブック(日刊工業新聞社)
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■事例4:製品精度が高く、微細なバリやせん断面の異常が問題になる。

 このような事例は刃先部分の微細な欠け(チッピング)により発生し、刃先部分に存在するS『粗大炭化物』の欠落が原因であると考えられます。パンチに使われる工具鋼には非常に硬くてもろい粗大炭化物が、図10〜14のように存在します。図10はSKD11、図11はSKD11改良鋼であるDC53のミクロ写真で、両写真ともに白い部分が炭化物となります。これを見るとSKD11よりもDC53は炭化物が微細で、チッピングに対して優位な材料であることがわかります。また、図12はSKH51、図13はマトリックス型ハイスDRM2、図14は同じくDRM3のミクロ写真となり、この写真では黒い部分が炭化物となります。マトリックスハイスはハイス組織から粗大炭化物を取り除き、基地(マトリックス)のみとすることで高靭性化したハイスで、価格面で粉末ハイス鋼よりも優位であることより本事例のような問題では良く使われる材料です。SKH51で本事例のような問題が発生した場合は図4(パンチの材質選定表)を合わせて参照いただき、チッピングが問題の多くを占める場合は炭化物がより微細なDRM2、チッピングと耐磨耗性を両立したい場合はDRM3という選択が有効になります。
図9 冷間ダイス鋼の硬さ 出所:大同特殊鋼 (DC53:SKD11改良鋼)

図9 冷間ダイス鋼の硬さ
出所:大同特殊鋼
(DC53:SKD11改良鋼)

 

図10, 11, 12, 13, 14
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